部下の育成にも想像力が必要

相手のことを“嫌いにならない”ような距離感を維持するタイプの人は、部下育成が機能しない。

感情が表に出ない。感情は好き・嫌い、快・不快が観えてこない。

冷静にみえる。熱量が不足しているようにみえる。

創造は人と人との関わりの中で生まれる。相手の問題や課題を共に解決する。問題は基準・標準値を下回っている状態。問題解決はマイナスをゼロに戻す行為。課題は基準・標準値以上にあり、そこから目指したいモノゴトがある状態。課題解決はゼロをプラスに上げる行為。

“相手のことを嫌いにならない距離感を維持できる”人は、担当者・プレイヤー時には、そつなく仕事をこなす傾向がある。マネジメント層からは重宝される。分業化された組織の中で、飛びぬけてはいないが、優秀な人のポジションにいる。分業化された環境では、創造力の優先順位は下がる。前例を正しくインプットし、たたき台にして、決められたことをミスなく、速くこなせることが最優先。そのような環境に5年もいると創造力を使う、その前提の想像力を使うことが不足していく。想像力に必要なインプットの内容も固定化される。好奇心が発生させづらい行動・思考習慣を身に付けていく。

そして、管理監督者になり、部下のパフォーマンスを上げる役割を担って行く。相手に深くかかわる行動・思考パターンが不足するこのタイプの人は、部下を管理する行動が優勢になる。同じ空間で仕事ができる場合、管理することで、部下のパフォーマンスは“最低限”上がる。最大化はされない。管理されている状態では、人は自発的にならない。自発的にならなければ、人は下限値で仕事をする。下限値は怒られないギリギリのライン。リモートで仕事をする環境がこの管理監督者の仕事に入り込んでくると、この管理する上司は必要とされなくなる。管理がしづらくなるため、部下が下限値すらやらなくなる。

部下や働いてくれる人の”できることを増やせる”人が必要とされるようになる。相手のできることを増やすには、良かれと思って”考えさせる”、”叱る”ことは必要ない。残業時間に制限がかかっている中で、職務に必要な基本ができていない相手に”考えさせる”、成長してもらいたいという一方的な思いで”叱る”は、機能しない。もし、考えさせる、叱ることを続けた場合、部下のパフォーマンスは下がっていく。「具体的に教えると考えなくなる」は間違い。そもそも、職務に必要な基本ができていない社員が圧倒的多数。

部下を管理せずに、部下のできることを増やす。そのために、遠隔であっても、電話であっても、対面であっても、部下の話す内容、話し方から相手が置かれている状況を“想像”し、つまずきを越える具体的なやり方を伝える。部下に媚びる、部下の機嫌を取る必要は無い。部下が「できることが増えた」と実感できればそれでいい。その実感が自発的な行動と思考を促していく。その過程でダメなものはダメと伝え、なぜダメなのか、どうして欲しいのか伝えるだけ。部下はできることを増やしてくれる上司の話は聴く。この段階で上司が「ダメ」と伝えたことは、部下は聴く。

相手のことを“嫌いにならない”ような距離感を維持する。このタイプの突き抜けない優秀な社員が、管理監督者になると、部下のできることを増やすために、部下のつまずきを想像する必要が出てくる。つまずきを想像するには、インプットが必要になる。インプットを得るには、部下に関わりに行く必要がある。相手のことを“嫌いにならない”ような距離感を維持するタイプは、ここでつまずく。かかわりに行くが、部下のつまずきを想像できない。習慣化された薄っぺらい関り・当たり障りのないコミュニケーションが条件反射で出てくる。そのことに気が付かない。

相手との距離感を詰めることで、相手のことを“嫌いになる”局面に出くわす。相手のことを“嫌いにならない”ような距離感を維持するタイプの人は、相手のことを“嫌いになる”局面を回避する。その結果、相手がどこでつまずいているのかを想像できない。想像できないため、部下のできることを増やすことができず、部下を過小評価し、単純作業しか部下に依頼ができなくなる。自分がやることが増えていく。

分業化された組織の中では、創造力の優先順位は下がる。しかし、創造力の前提にある“想像力”は必要になる。特に、人を教え育てる立場になった時から。想像力を高めるためには、相手に関わり、相手から直接インプットを得て、相手のつまずきを想像、そのつまずきを取り除く具体的なやり方を、相手の自尊心が傷つかないカタチで私、できることを増やしていく。

「相手のことを“嫌いにならない”ような距離感を維持する」タイプの人は、相手と距離を詰めない、相手に深くかかわろうとしない。その結果、想像が強化されない。想像力が強化されなければ、創造力を高めることもできない。このタイプの管理監督者が、トップマネジメントにもしなった場合、その組織の事業継続は難しくなる。このタイプは、新たな需要創造に踏込むことができないため。新たな需要創造には、人に深くかかわる必要がある。人に深くかかわることは、相手にことを“嫌いになる”局面が出てくるため。

正しい部下の育成は、管理監督者の事業開発・事業創造力を高める基礎をつくる。