タレントマネジメントが機能しない原因

タレントマネジメントの主題は、リーダー人材を開発すること。しかし、リーダーの定義が曖昧なケースが圧倒的に多い。組織内の階層に目を向けると、マネージャーの下の階層にリーダーが設けられているケースがある。このリーダーの意味合いは、次世代のマネージャー候補。もしくは、すべての従業員がリーダーになってほしいというもの。気持ちはわかるが、それは現実的ではない。従業員は大きく3つに分けられる。ローパフォーマー、ミドルパフォーマー、ハイパフォーマー。ローパフォーマーとミドルパフォーマーの多くは「はやく仕事を終えた」「はやく帰りたい」、成長や挑戦、目標達成は動機づけ条件にない。リーダーになるように導くのならハイパフォーマーが対象になる。

ここで問題が発生する。ハイパフォーマーは、すでにある需要、つまり先人が試行錯誤を通じて想像してきた需要に対処することが主な仕事。ハイパフォーマーが需要を創造してきたわけではない。すでにある需要に対処するためには、ある程度決められた範囲の業務を、ある程度決められたやり方で、ミスなく、より速くこなすことで評価が上がっていく。この前提の中で、生産性を上げてきた人がハイパフォーマー。はじめは尖っていた組織であっても、規模が大きくなり、分業化が進むことで、ふつうになっていく。このふつうの範囲内で優秀な人材がハイパフォーマー。

ハイパフォーマーは組織のある特定の領域で、周囲から一目置かれるポジションにあることが多い。一目置かれる対象は、既存の需要への生産性の高い対処。ハイパフォーマーがリーダーになっていくには、既存の需要への対処だけではなく、新たな需要を開発、開拓、創造する習慣を身に付けていく必要がる。これからの組織を牽引するには、新たな需要創造が必要になる。既存の需要はいずれ減少し、なくなっていくため。言葉は簡単ですが、ハイパフォーマーがいざ、このステップを直面すると、行動が発生しなくなる。「(既存業務が)忙しい」と言葉を発するようになる。これは事実。しかし、これは根本の原因ではない。根本の原因は「失敗したくない」。ハイパフォーマーは挑戦意欲が高い。より高い目標達成が動機づけ条件でもあるため。しかし、この挑戦意欲はあくまで既存需要の対処の範囲内のこと。 新たな需要を開発、開拓、創造するためには、いままでのような達成感や承認が得られなくなる。周囲からの称賛、高い目標の達成感がいつ得られるか不確定になる。はやくても6ヶ月はかかる。そこまで我慢できるハイパフォーマーは、極めてわずか。

人間は達成感や承認が発生する行動や思考を続ける。続けることで習慣になる。習慣は時間と共に条件反射になっていく。意識しなくてもできてしまう。しかし、新たな需要の創造をはじめると、条件反射でできない。

つまり、ハイパフォーマーをリーダーに引上げていく際に、そもそもの前提条件が大きく亜変わることが理解されていない。既存需要への対処をする業務ではハイパフォーマー。しかし、新たな需要を創造する業務ではローパフォーマーからはじまることを。

プライドがある、自尊心もあるハイパフォーマーが、ローパフォーマーにおりていくことは簡単ではない。今まで得られた周囲からの称賛と高い目標を越えた達成感が、今までのようなタイミングで得られなくなる。そのような状況を今まで約750社近くの企業で何度も観て来ている。

タレントマネジメントを担う部署の方々は、まずこの事実を理解しておいていただきたい。ハイパフォーマーの中には、リーダーにせず、ハイパフォーマーのままでいてもらった方が、組織としてプラスのケースもある。また、新たな需要の開発、開拓、創造と“生産性の向上”は相反することも。生産性を上げられる領域は、先人が創った既存の需要へ対処する領域。やり方がある程度パターン化、標準化されている。そうではなくても、誰かがやり方をもっている。

人材の能力を可視化しただけでは、タレントマネジメントは実現できない。そもそも、もしリーダーとして新たな需要を創造できる人材がいたとしても、その能力を具体的に定義づけてはいない。人材の能力を可視化する。その人材の9割以上は既存需要への対処。つまり、既存需要への対処に必要な能力要件が具体的に定義づけられる。ますます、本来のタレントマネジメントからは遠ざかっていく。本来のタレントは、既存需要への対処がハイパフォーマーでかつ、新たな需要創造に耐えられる人材。新たな需要創造に耐えられる人材要件は、多くの企業では未知。未知のものを知るにはやり方がある。そのやり方がない中で、いくらタレントマネジメント、リーダー開発と叫んでも、物事は先には進まない。